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(9/4修正)【ギフテッドの子を正しく理解し、個性を生かす本】

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目次

インフォメーション

題名ギフテッドの子を正しく理解し、個性を生かす本
著者宮尾益知
出版社大和出版
出版日2025年6月
価格1,650円(税込)

 

 IQが高いのになぜ問題児に? どうしたら持てる才能を伸ばせるか? 好きなこと以外やらない。思うようにいかなければ投げ出し癇癪を起こす。学校でも家庭でも扱いづらい子とされるその特性を知り、上手に寄り添い援助する法

引用:大和出版

ポイント

  • IQの高さではなく、知的能力の突出に伴う社会性や感情面の未発達、過敏性や衝動性といった「アンバランスさ」こそが、ギフテッド児の大きな課題であるとされている。
  • 認知発達と社会性の発達にギャップがあり、発達障害と才能が重なる2E児も存在し、支援は複雑さを伴う。
  • 家庭や学校は能力だけでなく心のケアを重視し、ありのままを受け入れる安心感を提供することが重要である。

サマリー

はじめに

本書は、小児精神科医として20年以上にわたり発達障害や知的特性をもつ子どもたちと向き合ってきた宮尾益知氏(以下、宮尾氏)が監修し、「ギフテッド」という知的に高い特性をもつ子どもたちの理解と支援について詳述したものである。

一般に「ギフテッド」とは、IQ130以上の知能指数を持つ子どもを指すことが多いが、本書ではこの定義だけでは不十分であると指摘されている。

というのも、IQの高さだけでその子の生きづらさや特性は語れないからである。

むしろ、知的能力の突出に伴う社会性や感情面の未発達、過敏性や衝動性といった「アンバランスさ」こそが、ギフテッド児の大きな課題であるとされている。

ギフテッド児の本質と社会的誤解

本書では、ギフテッド児が「才能あふれる子」として羨望の眼差しを向けられる一方で、「扱いづらい子」「問題児」として誤解されることの多さが強調されている。

授業中に立ち歩く、質問に対して過剰に深堀りする、感情の起伏が激しい、繊細すぎて泣き出す。

これらの行動は一般的には問題とみなされるが、ギフテッド児にとっては「過度激動(Overexcitabilities)」という特性からくる自然な反応であるとされている。

この「過度激動」は、ポーランドの精神科医ドンブロフスキによって分類された概念であり、以下の5つのタイプに分けられる。

1.精神運動性:常に動き続け、じっとしていられない。

2.感覚性:音、光、匂いなどに対して極端に敏感。

3.想像性:空想の世界に深く入り込みやすい。

4.情緒性:感情の振れ幅が非常に大きい。

5.知性:探究心が強く、論理的に物事を追求したがる。

これらの特性が複数重なることも多く、日常生活の中で不適応を起こす要因になり得る。

ただし、宮尾氏はこうした特性を「直すべき欠点」としてではなく、「活かすべき資質」として捉えるべきだと説いている。

知性と社会性の非同期発達

宮尾氏は、ギフテッド児が直面する最も大きな課題は「認知的発達と社会的発達のギャップ」にあると述べている。

すなわち、知的には大人並みに高度なことを考えられる一方で、他者の感情を読み取る「心の理論」や、状況に応じて自分を客観視する「メタ認知」などの社会的スキルが未発達な場合がある。

この非同期発達により、ギフテッド児は以下のような問題を抱えやすい。

・他人の視点に立てず、配慮を欠いた発言をしてしまう

・自分の優位性を強調し、周囲と衝突する

・理解されないことによる孤独感や自己否定

一見すると生意気で自信過剰に映るが、実際には「わかってもらえない苦しさ」や「社会的ルールへの戸惑い」による防衛的な行動であることが多い。

こうした背景に目を向けることが大人の役割であるとも説かれている。

ギフテッド児と発達障害の関係

本書では、ギフテッドと発達障害との重なりについても言及されている。

自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)といった診断を受けた子どもが、同時にギフテッドの特性を持つ場合がある。

このような子どもは「Twice Exceptional(2E)」、すなわち「二重に特別な子」と呼ばれる。

2E児は、才能と困難を同時に抱えている点において支援の複雑さが増す。

たとえば、ASDの傾向を持ちながらも、特定の分野において驚異的な集中力や記憶力を発揮する子どもがいる。

このような場合、行動面だけを問題視して支援が偏ってしまうと、本来の才能を見落とす恐れがある。

一般的な支援では、発達障害の「困りごと」の改善に重点が置かれがちだが、それだけでは不十分である。

本書では、困難の背景にあるギフテッドとしての能力や特性を正しく評価し、障害と才能の両面を統合的に捉える多面的な支援が求められるとされている。

家庭と学校に求められる支援

ギフテッド児を支えるうえで、家庭や学校の果たす役割は非常に大きい。

特に家庭では、親が「できる子」として子どもに過度な期待を抱くことで、かえってプレッシャーを与えてしまうことがある。

宮尾氏は、才能ばかりを強調せず、「努力する過程」や「他者との協働」「感情のコントロール」といった面にも着目すべきだと指摘している。

家庭での支援としては、以下のような姿勢が推奨されている。

・子どもの特性を受け入れる姿勢を持つ
・過剰な期待をもたない
・感情の起伏や過敏性に寄り添い、叱責でなく共感で対応する

一方、学校教育においても、ギフテッド児に対する理解と柔軟な対応が不可欠である。

日本の教育現場では「平均的な子」に合わせた一斉指導が中心であり、知的に先を行く子どもにとっては退屈で苦痛な時間となりやすい。

その結果、授業への無関心、教員との対立、不登校などの二次障害に至ることもある。

宮尾氏は、以下のような教育的工夫が求められると説いている。

・学習のスピードや内容を調整する個別最適な学習
・興味に基づいた探究的な課題の導入
・通級指導や特別支援の枠組みを柔軟に活用

また、教師自身がギフテッドに対する正しい知識を持つことが重要であり、学校全体で「異才を育てる」文化を育む必要性も指摘されている。

将来に向けた視点

ギフテッド児が社会の中で孤立せず、自らの力を発揮して生きていくためには、「知識」だけでなく「社会性」や「自己制御力」が不可欠である。

宮尾氏は、ギフテッドの子どもたちがその才能を活かしていくためには、以下のような力を育てることが大切だと述べている。

・他者と協働する力(対話・共感・チームワーク)
・自己理解と自己調整力(感情のマネジメントや失敗への耐性)
・問題解決能力と探究力(知識を活かす応用力)

また、過度な完璧主義や自己肯定感の低さは、ギフテッド児が抱えがちな課題であり、これらを克服するには、大人からの「ありのままの自分を認められる経験」が必要であるとされる。

From Summary ONLINE

本書『ギフテッドの子を正しく理解し、個性を生かす本』は、ギフテッドという特性を持つ子どもたちに対して、社会がいかに無理解であるかを明らかにし、その理解と支援の在り方について多角的に論じている。

宮尾氏は、ギフテッドとは単なる「能力の高い子」ではなく、認知的・感情的・社会的な特性が複雑に絡み合った存在であると繰り返し強調している。

ギフテッド児は、才能ゆえに周囲から期待される一方で、その特性による困難や生きづらさは理解されにくく、孤立や誤解を招きやすい。

特に「過度激動」や「非同期発達」などに象徴されるように、その内面には常に葛藤があり、環境の不適応や心の傷となって表出することが少なくない。

また、本書が示すように、ギフテッドと発達障害が重なる「2E」という存在も見逃されがちである。

才能と障害、どちらか一方に偏った支援では不十分であり、子どもの多面性を認める支援体制が求められる。

家庭や学校は、ギフテッド児にとって最も身近で重要な環境である。

大人たちが子どもの特性を理解し、可能性を伸ばすと同時に、その心の揺れや不安にも寄り添うことが必要不可欠である。

本書では、「才能を伸ばす」ことと同じくらい、「そのままの自分でいていい」と感じられる安心感の大切さが説かれている。

ギフテッドとは、決して「特別な誰か」ではなく、「身近な誰かかもしれない」。

その可能性に目を向け、社会全体で理解と支援を進めていくことが、ギフテッド児が健やかに生きていく土台となる。

本書は、そのための確かな知識と深い示唆を与える一冊である。

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