インフォメーション
| 題名 | VUCA時代に挑む中小企業 |
| 著者 | 大西 正曹 |
| 出版社 | 同友館 |
| 出版日 | 2021年2月 |
| 価格 | 1,870円(税込) |
日本の中小企業は、親企業の注文に応じ、設備更新や増設についても、発注を前提とする半強制的な指導を受けることで事業を継続してきた。
しかしながら、親企業は生産拠点をコストの安い海外に移すなど中小企業を面倒を見るどころか切り捨てようとしている。
そんななか自社の潜在的スキルを掘り起こし、独自の販路を開拓して復活した14社の中小企業を紹介する。
引用:同友館
ポイント
- 世界の各所で「VUCA(ブーカ)の時代」が到来したといわれるようになった。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつなぎ合わせた造語。これら4つの要因により、現在の社会経済環境がきわめて予測困難な状況に直面しているという時代認識を表す言葉である。
- 本書では、実際に現地へ赴き経営者の声を聴いた16社を紹介する。それは、VUCAの時代の激流に翻弄される中小企業の経営者が、目標に向かって進むための海図でもある。
- 兵神機械工業は、およそ90年前、基本理念に「環境にやさしい」を採り入れ、事業展開に活かしてきた。船舶用機器の製造販売を手掛ける同社は、その技術により水耕栽培の装置の開発に成功した。それは自社の技術というモノを、どんなコトに使えるかを丹念に見つめてきた成果である。
サマリー
はじめに
2010年代に入って以降、世界の各所で「VUCA(ブーカ)の時代」が到来したといわれるようになった。
VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつなぎ合わせた造語。
これら4つの要因により、現在の社会経済環境がきわめて予測困難な状況に直面しているという時代認識を表す言葉である。
私は40年近くにわたり、あらゆる業界の中小企業を訪問してきた。
本書では、そのなかでも印象的だった16社を紹介、実際に現地へ赴き経営者の声を聴いたからこそ知り得た知見を披露する。
VUCAの時代の激流に翻弄される中小企業の経営者が、本書をもとに、向かうべき針路を明らかにすることができれば、これに勝る喜びはない。
株式会社ケイワード九州
地域密着型の販売店の力に
家電小売店は急速に減少している。
しかし、大型量販店はアフターサービスが万全とは言いがたい。
高齢化が進む地方都市では、設置から操作の手順まで面倒を見てくれる地域密着型のサービスは価値があるはずだ。
だが、小売店が商品の操作をすべて熟知するのは不可能だろう。
そこで紹介したいのが、家電卸売業を営んでいる、ケイワード九州だ。
創業者であり、現在も代表取締役を務める竹中康彦氏は、顧客の目線に立って考えることを重視。
小売店が一般消費者に丁寧なサービスを行うには、卸売業者が製品をとことん理解することが基本と考えた。
そこで、新商品が発表されるたびに社内で研修会を実施。
気づいた点をメーカーに問い合わせ、社内で共有、小売店に惜しみなく伝えた。
人材育成に力を入れ、展示会や見本市などにも積極的に従業員を送り出している。
竹中氏は、新製品の情報をいち早くキャッチするために、つねに首都圏の市場にも目を光らせているという。
信頼関係を強固にした被災時のアクション
2016年に熊本を襲った大地震で、同社も甚大な被害を受けて存続の危機に直面する。
しかし竹中氏は、自社の再建を後回しにして、取引先の安全確認と緊急対策を最優先した。
取引先に社員を派遣して復興をサポート。
被災者住宅への小売店からの家電納品も、率先して取引先を支援したのだ。
こうしたことが小売店の経営者の胸を打ち、信頼関係を強固なものにしたという。
兵神機械工業株式会社
90年前に採り入れた「環境にやさしい」基本理念
いま盛んにSDGsが謳われ、目標14として「海の豊かさを守ろう」が掲げられている。
だがおよそ90年前、創業当時からの基本理念に「環境にやさしい」を採り入れ、事業展開に活かしてきた企業がある。
兵庫県神戸市で1929年に創業した、兵神機械工業だ。
同社は、船舶用機器の製造販売を手掛ける。
私が特に着目するのは、油水分離器である。
これは、船の底に溜まった油混じりの水を分離する装置で、海洋汚染を防止するもの。
年々規制値の基準が高くなるが、同社では時代を先取りした製品開発に取り組んでいる。
2020年に、船舶の煙突から排出される汚染物質の規制が強化されたが、同社では早くから大気汚染防止機器の開発にも着手。
二酸化炭素の排出量の測定・監視モニターを加えた環境保護製品をラインアップしている。
水耕栽培という新ビジネスへ
同社では、船舶用機器の開発で培われた技術により、水耕栽培の装置を開発。
さらに、それを船舶に搭載できるように創意工夫を重ねた。
船上で野菜を育成できる水耕栽培装置があれば、採れたて野菜を船乗りが口にすることが可能であろうと考えたのだ。
水耕栽培の野菜類は、長時間船上に拘束される乗組員に癒しを与え、メンタルの改善につながる可能性もあるという。
水耕栽培事業の成功は、自社の技術というモノを、どんなコトに使えるかを丹念に見つめてきた成果である。
ミズノハードテック株式会社
金属表面処理技術のナンバーワン
プラスチック成型品は、金型による非切削加工によって製造されるものであり、金型自体に高い耐久性が求められる。
そこで不可欠なのが、金型を保護する表面処理の技術である。
ミズノハードテック創業者の水野晃氏は、この仕事に関してはナンバーワンだと話す。
金属表面処理の技術は、一つひとつの仕事において、形状・材質・熱処理方法などが異なる。
同社は、「小口の客」を大切に考え、取引先は一社に集中しないように配慮しながら、きめ細かな対応を心がけてきた。
今日では、取引先は日本全国で300社にも及ぶ。
製品の配送には宅配便を利用し、24時間以内に届ける体制を整えるなど、取引先の厳しい要求を、極めて短時間で処理している。
サプライチェーン再構築が課題の今、新たな存在感
ミズノハードテックが位置する東大阪市は、中小の製造加工業者が5000社以上集まる。
同社は、関連企業と提携しながら得意分野に技術を特化することにより、巧みに経営を行ってきた。
コロナ騒動により、新興国に頼るサプライチェーンの脆さを露呈。
国内のサプライチェーンへの回帰が謳われるなか、得意技を備える企業が集結する東大阪には、再び熱い視線が注がれる。
それらを巧みに組み合わせてナンバーワンの技術へと昇華させている同社は、規模の大小を問わず、企業のあるべき姿を示しているといえるだろう。
From Summary ONLINE
著者は、さまざまな中小企業を取材し、「まいど!」と何度も訪ねることから「まいど教授」と呼ばれたという。
本書では、中小企業の経営者に自社を見直すための参考としてもらうべく、16社(コラム含む)の事例を紹介している。
職種も地域も多岐にわたるが、起業までの経緯や、技術的な細かい部分にも触れるなど、著者と各企業との間に強い信頼関係があることが窺える。
著者の中小企業を応援する思いに溢れた本である。