インフォメーション
| 題名 | 借りない資金繰り |
| 著者 | 古尾谷未央 |
| 出版社 | 同友館 |
| 出版日 | 2017年10月 |
| 価格 | 1,980円(税込) |
決算書に対して、注目されることの少ない「資金繰り表」。資金繰り表は企業活動をお金の面からあらわしたもので企業の問題点をあぶりだす有効なツールである。また経営者にとって、常に先々の資金ポジションが見えていること。これが安心感を生み、本来の仕事に専念することが出来る。中小企業の実態と資金繰り表の活用方法を学べる。
引用:同友館
ポイント
- 資金繰りに困ったら、まず金融機関に相談する。その習慣が、実は会社を弱くしている。返済を待ってもらっても、赤字の原因は残ったままだからだ。
- 金融機関で10年、中小企業支援で10年働いた著者が勧めるのは、自己資金で回す「借りない資金繰り」である。現預金の動きから実態をつかみ、3年かけて借入金を減らす道筋を、経営者と融資担当者の両方に示す。
サマリー
借りる資金繰りは、問題の先送りにすぎない
東京23区に本店を置く信用金庫では、返済条件を緩めた貸付の件数が、2013年3月の27万3,004件から2017年3月には52万2件へと、ほぼ2倍に増えた。
中小企業金融円滑化法が2013年3月末に期限を迎えたあとも、金融機関は同じような柔軟な対応を続けている。
だが、これで会社が立ち直るわけではない。
返済が楽になっても、赤字を生む仕組みには手がついていないからだ。
著者は、企業と金融機関の関係を「裏切りの連鎖」と呼ぶ。
企業は粉飾や返済の遅れで信頼を失い、金融機関は疑いを深めて支援を打ち切る。
この連鎖を断つには、社長が自社の過去・現在・未来を数字で語るしかない。
金融機関との対話で最も役に立つのが、資金繰り表なのだ。
利益は現預金の増減でしか分からない
決算書の利益は、在庫の数字を動かせば簡単に黒字にできる。
著者は金融機関時代に、過去10年で在庫を2倍以上に膨らませていた砕石業者を見ている。
支払いと返済を済ませたうえで預金が増えていれば、その利益は本物だ。
業績悪化の原因の多くは、外の環境ではなく会社の内側にある。
著者はこれを「社内悪」と呼ぶ。
過去10年のB/S(貸借対照表)を並べると、人を増やしたのに売上が伸びていない、設備を増やしたのに利益率が落ちている、といった判断の誤りが見えてくる。
50年続く惣菜メーカーは、取引の大半が食品スーパーへの卸で、販売価格は製造小売の7掛け程度しかなかった。
冷凍倉庫を整理すると売れない在庫が大量に見つかり、廃棄だけで100万円かかった。
売価に直せば500万円以上の損である。
社長の親族から毎月100万円を入れて支払いを続けたが、その資金も底をついた。
最後は自力での再建をあきらめ、スポンサーの支援を受けることになった。
社員の雇用はすべて守られたものの、一番の原因は社長自身が変われなかったことにあった。
親族の資金でつないだことが、かえって問題を先送りすることになったのだ。
著者は、自己資金の投入はできるだけ避けるのが鉄則だと説く。
放置すれば、会社は「マンネリ化」「付加価値の低下」「社内悪の蔓延」「社長不信」の4段階を経て沈む。
最後の段階まで進むと、社長の交代や事業の売却しか手が残らない。
実績を知り、3つの予想で先を読む
「借りない資金繰りサイクル」は、
①資金繰り実績の作成
②予想シミュレーション
③資金繰り計画
④B/S計画
⑤運用の5段階で回る。
出発点は、過去の現預金の動きだ。
損益計算書だけでは、お金の動きが見えないからである。
1月に2,000万円の製品を受注し、材料800万円は翌月払い、代金は2か月後に入る取引を考えてみる。
1月の試算表では、営業利益200万円の黒字になる。
ところが通帳では、給与や経費、返済が先に出ていく。
期首に3,000万円あった資金は、1月末に1,930万円、2月末には130万円まで減ってしまう。
黒字でも、支払いが先に来れば会社の資金は尽きかねないのだ。
そこで会計ソフトの仕訳伝票から現預金の取引を抜き出し、本業の収支(経常収支)、設備投資などの収支、借入と返済の収支に分けて集計する。
手元資金は最低でも「固定費1か月分+返済1か月分」、安定させるなら「月商2か月分」が目安になる。
次に、実績に係数をかけて来年を予想する。
成り行きは収入98%・変動費103%・固定費105%。
楽観は110%・107%・100%。
悲観は80%・85%・105%。
悲観の予想は、最悪の事態が来ても慌てないための備えだ。
売上が3割落ちた優良アパレルメーカーは、この予想を何度も繰り返し、不採算の取引先を減らして売上をさらに落とす「逆の戦略」を選んだ。
売上は約5割減ったが、粗利は8%ほど改善し、倒産を免れた。
「もう終わりにしたい」と話していた社長は、後半に資金が回ると分かって「もう少し頑張ってみる」と言うようになった。
先の資金が見えることで、社長の思考が180度変わったのである。
さらに、返済を続けても資金が尽きない売上を「資金繰り分岐点」として求める。
式は「(固定費+設備維持費+年間返済額)÷(1-変動費の比率)」だ。
固定費、変動費、売上の順に、実際に達成できる数字を積み上げていく。
借入金に色を付け、上限を決める
借入金は、白(運転資金)・灰(設備資金)・黒(赤字の穴埋め)の3色に分ける。
借入金の上限は、年間の付加価値額(粗利に近い、会社が生み出した価値の額)までが目安だ。
たとえば借入金が4億円、付加価値額が2.5億円の企業では、白が1億円、灰が1.8億円、黒が1.2億円となった。
この1.2億円が、過去の失敗がたまった「膿」である。
毎年3,000万円ずつ返せば、5年で借入金を付加価値額と同じ2.5億円まで減らせる。
まず減らすべき額を知ることが、立て直しの第一歩になる。
計画を作る順番も逆にする。
ふつうは損益計画から作るが、本書では資金繰り計画を先に作り、そこから損益計画とB/S計画を組み立てる。
「利益は出たのにお金が足りない」という事態を、最初から防ぐためだ。
3年で、借入金を1割減らす
目標は3年刻みで置く。
1年目は、税金などを払ったあとの経常収支をトントンにし、借入金を前年より増やさない。
2年目は、収入の1〜2%を残して設備の更新に回す。
3年目は、収入の3%を残し、借入金を当初より10%減らす。
その先に、自己資本比率30%がある。
パンの製造小売を営むプラスパンは、この道筋で立ち直った。
効率を求めて建てた工場のパンは客の心をつかめず、融資も止まった。
社長は工場を閉め、店で焼きたてを売る形に戻す。
不足する資金は、「食パンの前売り券」を売って補った。
営業利益率は11期の▲4.7%から、15期には7.9%まで回復している。
計画が狂いそうなとき、すぐに借入に頼れば「借りる資金繰り」に逆戻りする。
先に固定費を削るか、社長が自ら営業に出て売上を取りにいく。
とくに固定費の削減は、時間との勝負になる。
返済を猶予してもらっていたある企業は、新規開拓の部門を廃止し、既存の顧客への営業に絞って資金繰りを立て直した。
社長は「決断があと1か月遅れていたら、恐らく企業はもう無かった」と振り返る。
金融機関も見るのは過去ではなく今
注文は金融機関にも向けられる。
同業他社と比べて悪い点を並べるだけの分析は、「傷に塩を塗る」ようなものだ。
見るべきは、試算表の利益より現預金の残高である。
著者は、企業に資金繰り表を作らせるのではなく、根拠の資料を受け取って金融機関が自ら作るよう勧める。
そのうえで「回収が毎月1,000万円、変動費が40%なら、固定費を月40万円減らせば借入金を年500万円減らせる」といった形で、社長に道筋を示す。
業績の良い会社へ社長と幹部を連れていき、刺激を受けてもらうのも支援の1つだ。
金融機関はよく「業績改善が決算に表れてから検討します」と言うが、それでは遅い。
撤退などの改善に踏み出す時期にこそ、資金を支えるべきだという。
社長と向き合うときの心構えも示されている。
社長が「本気でやりきる」と思える、腹に落ちる数字を示すこと。
どんな業績であっても、まず社長に敬意を表すこと。
結果の数字だけを見て責めず、改善を妨げている「絡んだ糸」を解いていくこと。
財務を見る金融機関だからこそ、それができるのだ。
From Summary ONLINE
資金繰りという経営の課題に対し、係数、分岐点の式、3年間の数値目標まで、具体的な形で答えている点が本書の強みだ。
経営者には自社を数字で語る方法を、融資担当者には過去ではなく今を見る視点を与えてくれる。
どちらの立場にとっても、実務に直結する学びが得られる1冊だ。
まずは直近1年分の通帳を開き、本業だけで現預金が増えているかを確かめてみてほしい。
借入や税金の判断は、顧問税理士や金融機関と相談しながら進めたい。