インフォメーション
| 題名 | 「4割値上げ」で始まる小さな会社の”らしさ”ブランディング |
| 著者 | 吉田 由佳 |
| 出版社 | 同友館出版 |
| 出版日 | 2025年2月 |
| 価格 | 1,980円(税込) |
社会情勢が激しく変化する中、小さな会社の経営者は相変わらず「安売り」を続け、苦しみながら経営している。「謙虚は美徳」の教育を受けてきた日本人は、価格を高くつけることに抵抗があり、お客様が喜ぶのは「安売り」だと信じて疑わない。しかし、商品を沢山売っても、経営の苦しさから抜け出せない小さな会社が多いのはなぜか。
それは、「商品価格が安すぎるから」である。
会社や商品価値のブランドイメージが上がれば、商品価格を上げることができると信じてやまない経営者が多いが、それは幻想だ。多くの小さな会社は罪悪感から値上げできない。
この本は、「4割値上げ」から始めるブランディングの実践書。
まずは商品の価格を「4割値上げ」してみる、そこからがスタートだ。じわじわ値上げではなく、4割なのには理由がある。2割が赤字補填や仕入価格などのブレの調整、2割が利益の確保だ。値上げをしたうえで、商品の価値をどう伝えるかを考える。この順番こそが、小さな会社が成功する秘訣だ。
ではどうやって、価格イメージに合った価値を伝えていくのか。その鍵となるのが「エンターテイメント」である。欲しいものはなんでも手に入ってしまう時代、モノで顧客の心は満たされない。人は、モノではなく感情で買う。仕事や生活で沢山のストレスを抱えている消費者は「心を満足させる消費」を求めている。つまり、「お金があるけど疲れている」消費者に、いかに気持ちよくお金を使ってもらうかが鍵となるのだ。
ただの「モノ売り」を脱して、自社“らしさ”を起点としながら、お客様の視点を加えていくことで、“らしさ”を超えるエンターテイメントを生み出す会社になるためには、本書の3つのステップが必要となる。
まずは自社“らしさ”の(1)「棚卸」、そして自社のサービスや商品を最短で理解してもらえる(2)「トリセツ」作り、最後に、お客様の行動変革を促す(3)「発信」だ。ただ一方的に発信するだけではなく、お客様が喜ぶ姿を想像しながらタッチポイントに仕掛けを作っていく。「思いやり」「先回り」「至れり尽くせり」で、知らず知らずのうちにお客様を自社のペースに巻き込んでいくことが重要となる。
多くの中小零細企業の経営者によって磨き上げられてきた本書のワークを一歩ずつ進めていくことで、着実に経営者の意識行動変革をもたらし、三方良し(自社・顧客・取引先)のブランディングを確立させる。小さな会社が生まれ変わるための実践的な一冊。
【こんな人におススメ】
★そこそこ売れているのに、なぜかお金が手元に残らない
★自分や商品に自信が無くて、ついつい安売りしてしまう
★長時間労働しているのに儲からず、仕事をしていて苦しい
引用:同友館出版
ポイント
- 著者は企業のリブランディングを依頼されると、「まず4割値上げしましょう」と提案する。価格を上げる代わりにブランド価値を高め、価格以上の満足を届けることが、小さな会社が生き残る道なのである。
- 市場は商店街やショッピングモールではなく、スマートフォンの中へ移った。だからこそ、小さな会社は「店舗へ来てもらう方法」ではなく、「スマートフォンの中でどう選ばれるか」を考えなければならない。
- 「安いから売れる」のではなく、「価値に共感するから選ばれる」。価格競争では大企業が有利だからこそ、小さな会社は独自の物語や理念、サービスを磨き、その価値に見合った価格を提示することが重要なのである。
サマリー
小さな会社は「安さ」で戦ってはいけない――利益を生み出すブランドの作り方
本書は、数多くの中小企業や個人事業を支援してきたブランディングの専門家が、「小さな会社だからこそ値上げをすべきである」という考え方を伝える一冊である。
価格競争が激化する時代、多くの経営者は「もっと安くしなければ売れない」と考えがちである。
しかし著者は、それこそが小さな会社を苦しめる最大の原因だと指摘する。
本当に必要なのは値下げではなく、自社の価値を高め、その価値にふさわしい価格へ引き上げることである。
本書では、ブランドづくりからストーリー設計、顧客体験の演出まで、小さな会社が利益を残しながら長く愛されるための考え方が数多く紹介されている。
値下げではなく4割の値上げを提案する理由
著者は企業のリブランディングを依頼されると、多くの場合「まず4割値上げしましょう」と提案する。
当然、多くの経営者は驚く。
「お客様が離れてしまうのではないか」「競合より高い価格では売れない」「クレームが増えるのではないか」、
そのような不安を口にする経営者は少なくない。
しかし著者は、価格を下げ続ける経営では会社も社員も幸せになれないと断言する。
利益が少なければ従業員へ十分な給与を支払えず、人材も育たない。
経営者自身も毎日忙しく働き続けなければならず、会社全体に余裕がなくなる。
安売りは一時的に売上を増やせても、長期的には会社を疲弊させてしまうのである。
そのため著者は、まず赤字を解消するために2割、さらに社員へ還元できる利益を生み出すために2割、合計4割の値上げが必要だと考えている。
価格を上げる代わりにブランド価値を高め、価格以上の満足を届けることが、小さな会社が生き残る道なのである。
今の市場は店舗ではなくスマートフォンの中にある
コロナ禍以降、「客足が戻らない」と悩む企業は多い。
しかし著者は、その発想自体を見直す必要があると語る。
相談に訪れた経営者へ「最近ショッピングを楽しみに街へ出掛けましたか」と質問すると、ほとんどの人が「行っていない」と答えたという。
つまり経営者自身も、以前のように街を歩いて買い物をしていないのである。
現在、多くの人はスマートフォンで商品を探し、比較し、そのまま購入する。
市場は商店街やショッピングモールではなく、スマートフォンの中へ移った。
だからこそ、小さな会社は「店舗へ来てもらう方法」ではなく、「スマートフォンの中でどう選ばれるか」を考えなければならない。
ネットショップやSNS、検索を前提としたブランドづくりが、これからの時代には欠かせないのである。
商品ではなくストーリーを売る
本書では、リブランディングによって人生を大きく変えたジュエリーデザイナーAさんの事例が紹介されている。
Aさんはイタリア留学を経てジュエリーブランドを立ち上げたものの、10年間休みなく働いても利益が残らず、将来への不安を抱えていた。
著者はAさんへ5つの改善策を提案する。
・商品の4割値上げ
・ブランドストーリーの構築
・外部職人の活用
・ブライダル商品の強化
・ネットショップの開設
特に印象的なのが、2つめのストーリーづくりである。
Aさんはジュエリーだけでなく雑貨も制作していたため、商品の世界観がばらばらになっていた。
そこで著者は、「旅」をブランドテーマに設定し、すべての商品へ旅を連想させる名前や物語を与えることを提案した。
その理由は、多くの人が毎日ほぼ同じ生活を繰り返しているからである。
同じ時間に起き、同じ通勤をし、同じ仕事をして帰宅する。
そんな変化の少ない毎日の中で、ブランドのInstagramを見るたびに異国の景色を思い浮かべられたら、それだけで小さな旅を楽しめる。
ジュエリーそのものではなく、その背景にある物語が、お客様の日常へ彩りを与えるのである。
ブランドとは商品ではなく、感情や世界観を届ける存在であることがよくわかる事例である。
小さな会社だからこそ感動を演出できる
著者は「エンターテインメント」はテーマパークのような大掛かりな演出ではないと語る。
大切なのは、お客様が思わず「すごい」と声を漏らす瞬間をつくることである。
その象徴として紹介されるのが、東京で花屋を営むDさんの事例である。
Dさんは観葉植物を届ける際、注文された商品だけではなく、多くの植物をトラックへ積み込んで訪問する。
そして到着後、「もしお時間があれば、お部屋全体をコーディネートしてみましょうか」と提案する。
玄関やリビング、廊下まで植物を配置し、お客様の住まい全体をプロの視点で演出していく。
さらに、もともと家にあった植物まで状態を確認し、それぞれに適した手入れ方法を丁寧に説明する。
購入されなかった植物も含めて写真を撮影し、後日、それぞれの植物の育て方や管理方法をまとめた資料を送付する。
その結果、お客様は安心して植物を育てられるだけでなく、「やっぱりあの植物も欲しい」と追加注文するケースも少なくないという。
売ることだけを目的にするのではなく、期待を超える体験を届けることが、小さな会社最大の武器なのである。
ブランドとは価格ではなく価値で選ばれること
本書を通して繰り返し伝えられるのは、「安いから売れる」のではなく、「価値に共感するから選ばれる」という考え方である。
価格競争は資本力のある大企業が有利であり、小さな会社が同じ土俵で勝負することは難しい。
だからこそ、自分たちにしかない物語や理念、サービス体験を磨き、その価値に見合った価格を堂々と提示することが重要になる。
値上げは利益を増やすためだけではない。
社員へ十分な給与を支払い、より良いサービスを提供し、お客様へさらに大きな価値を届けるための投資でもある。
ブランドとは、価格を下げる努力ではなく、価格以上の価値を届け続ける努力によって育っていくのである。
From Summary ONLINE
本書は、小さな会社が価格競争から抜け出し、ブランド価値で選ばれる企業になるための考え方を具体的な事例とともに紹介した一冊である。
印象的だったのは、「4割値上げ」という大胆な提案の背景にある考え方である。
価格を上げること自体が目的ではなく、利益を確保し、社員や会社へ還元しながら、さらに価値を高めていく好循環をつくることが重要だと理解できた。
また、ブランドとは商品の性能だけではなく、ストーリーや体験によって形づくられることも印象深い。
旅をテーマにしたジュエリーや、観葉植物のコーディネートサービスのように、お客様の感情を動かす工夫こそが、小さな会社ならではの強みになる。
価格ではなく価値で選ばれる会社を目指したい経営者や個人事業主にとって、多くの気づきを与えてくれる一冊である。