インフォメーション
| 題名 | 街の本屋は誰に殺されているのか? |
| 著者 | 小島 俊一 |
| 出版社 | フローラル出版 |
| 出版日 | 2025年11月 |
| 価格 | 1,760円(税込) |
制度を守ることが、現場を壊してしまう。
なぜ、先進国で唯一、日本だけが街の本屋を失い続けているのか?
再販制度・委託販売・発売日協定―出版界の“3つの聖域”に切り込み、
その不合理な真実を解き明かす。
偶然の出会いが生まれる街の本屋を守るのは、今がラストチャンスだ。
本と本屋を愛するすべての読者に問いかける、渾身の一冊。
引用:フローラル出版
ポイント
- 出版不況は世界共通の現象だと思われがちだが、著者は実際には日本だけが突出して書店数を減らしていると指摘する。これは、日本人が本を読まなくなったからではない。書店だけが急速に姿を消している背景には、日本独自の出版流通システムが存在しているのである。
- 日本の書店は雑誌やコミックに依存してきたため、書籍中心の海外に比べて市場変化のダメージを大きく受けている。それにもかかわらず、出版業界が雑誌全盛期の古い仕組みを維持し続けていることが、街の書店を窮地に追い込んでいるのである。
- 書店に注文外の本が自動で届く「見計らい配本」は、返品の悪循環を生む原因だ。出版社は返品を見越して多めに出荷し、書店は配本確保のため過剰に注文する。こうした非効率な仕組みが、結果として、書店が地域の読者に合わせた売り場を作る自由を奪っているのである。
サマリー
音声で聴く
日本の出版不況の本当の原因
出版不況という言葉を耳にする機会は多い。
インターネットや電子書籍の普及によって本が売れなくなり、書店が減少しているという説明は広く知られている。
しかし、本書はそうした通説に疑問を投げかける。
著者は地方書店の経営者、大手取次会社の役員、出版社の顧問、さらには著者として出版業界に長年携わってきた人物である。
出版の現場をあらゆる立場から見てきた経験をもとに、日本の出版業界が抱える構造的な問題を明らかにしている。
本書が訴えるのは、日本の出版不況は読者の「活字離れ」が原因ではなく、時代に合わなくなった制度が業界全体を苦しめているという事実である。
日本だけが突出して書店を失っている
出版不況は世界共通の現象だと思われがちだ。
しかし著者は、実際には日本だけが突出して書店数を減らしていると指摘する。
日本、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスを比較すると、書店数が大幅に減少しているのは日本だけであり、韓国ではむしろ増加傾向も見られるという。
また、「日本人が本を読まなくなったから書店が減った」という説明も事実とは異なる。
調査では、読書をする人の割合は長期的に大きく減少していないことが示されている。
つまり、読者が急激に本から離れたわけではない。
それにもかかわらず、書店だけが急速に姿を消している背景には、日本独自の出版流通システムが存在しているのである。
雑誌中心だった書店経営が限界を迎えている
日本の書店は長年、書籍よりも雑誌やコミックによって売上を支えてきた。
しかし近年、雑誌市場はインターネットの普及によって急速に縮小している。
コミック市場も電子化の影響を受け、従来ほどの勢いはなくなりつつある。
一方で海外の書店は、売上の中心が書籍であるため、日本ほど大きな影響を受けていない。
本来であれば市場の変化に合わせて流通や販売方法も変わるべきだが、日本の出版業界は雑誌中心だった時代の仕組みを維持し続けている。
その結果、時代とのズレが広がり、街の書店が苦境に立たされているのである。
本屋を縛る「3つの制度」
著者は、日本の出版業界を苦しめている原因として三つの制度を挙げている。
一つ目は「再販制度」である。
日本では出版社が販売価格を決めるため、書店は自由に値引きを行えない。
売れ残った本も価格を下げて販売することができず、在庫を抱え続けることになる。
この制度は戦後、小規模書店を価格競争から守る目的で導入された。
しかし現在では、ネット書店による送料無料やポイント還元が一般化するなかで、実店舗だけが価格競争に参加できない状況を生み出している。
二つ目は「委託制度」である。
書店は売れ残った本を返品できる一方で、その返品コストは出版社や取次会社が負担する。
この仕組みによって大量仕入れと大量返品が常態化し、日本では返品率が40%を超えるという。
返品を前提とした流通は、出版社・取次・書店のすべての利益を圧迫し、業界全体の体力を奪っている。
三つ目は「雑誌発売日協定」である。
地域ごとに発売日が厳格に決められており、柔軟な販売ができない仕組みとなっている。
これもかつては公平性を保つための制度だったが、現在では時代に合わない制約となっている。
著者は、これら三つの制度はかつて出版文化を守るために機能したものの、現在では書店の成長を妨げる「鎖」へと変わってしまったと指摘している。
海外では制度を柔軟に見直している
日本と異なり、海外では出版文化を守りながらも柔軟な制度運用が行われている。
例えばフランスでは一定範囲での値引きが認められ、ドイツでは出版から一定期間が経過した本は価格拘束が解除される。
韓国でも価格とポイント還元を組み合わせた割引制度が導入されている。
つまり、多くの国では文化保護と市場競争を両立させる仕組みが整えられているのである。
一方、日本は70年以上前に作られた制度を大きく見直すことなく維持してきた。
その結果、市場環境だけが変化し、制度との間に大きなギャップが生まれてしまった。
「見計らい配本」が現場の自由を奪う
本書では、取次会社による「見計らい配本」の問題にも触れている。
見計らい配本とは、書店が注文していない本も取次会社の判断で自動的に配送される仕組みである。
この制度によって、書店には地域の客層に合わない本が届くことも少なくない。
自ら選んで仕入れた本ではないため販売への意欲も生まれにくく、結果として返品が増えるという悪循環につながっている。
さらに、出版社は返品を見越して多めに出荷し、書店は配本数を確保するため必要以上に注文するなど、制度そのものが非効率な流れを生み出している。
本来であれば書店が地域の読者に合わせて売り場を作るべきだが、現状ではその自由すら十分に与えられていないのである。
制度を守るのか、本屋を守るのか
著者は、現在の出版業界が大きな転換点を迎えていると考えている。
制度を維持すること自体が目的になれば、現場の書店は今後も減少を続けるだろう。
一方で、本当に書店を守るのであれば、時代に合わせて制度を見直す勇気が必要になる。
本書では、こうした課題に立ち向かい、新しい書店づくりや流通改革に挑戦する書店や出版関係者の取り組みも紹介されている。
出版文化を未来へ残すためには、制度そのものを変えるだけでなく、現場で挑戦を続ける人々の存在も欠かせないのである。
From Summary ONLINE
本書は、日本の出版不況の原因を「読者離れ」ではなく、時代に適応できなくなった出版流通システムにあると分析している。
再販制度、委託制度、雑誌発売日協定という三つの制度は、かつて出版文化を支えた重要な仕組みだった。
しかし現在では、書店の自由な経営を妨げ、業界全体の活力を奪う要因となっている。
海外では文化保護と市場競争を両立させる制度改革が進む一方、日本では長年の慣習が変わらず残されてきた。
その結果、書店数は世界でも例を見ない速度で減少している。
本書は、出版業界の現状を知るための一冊であると同時に、本屋という文化を未来へ残すために何を変えるべきかを考えさせる一冊でもある。
制度を守ることではなく、本当に守るべきものは何か。
その問いを読者に投げかけている。