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【かんぽ生命びくびく日記】

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目次

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題名かんぽ生命びくびく日記
著者半沢 直助
出版社三五館シンシャ
出版日2025年10月
価格1,430円(税込)

 

「自分が買わない商品を売る仕事」
かんぽ営業マンが教える
口説きの手口
――かんぽ生命、入りませんか?

今から数年前、私は東海地方にある郵便局に勤務し、かんぽ生命の苛烈なノルマに追われながら仕事に勤しんだ。数十件におよぶ契約を獲得し、東海支社管内での「ルーキー賞」なる賞を受けた。
さらに在籍中、当時のかんぽ営業のあり方をいくつかのメディアに告発した。そういう意味では、かんぽ生命の不適切営業問題が表面化するきっかけを作った一人ともいえる。
かんぽ営業の裏も表も経験した1年あまりにおよぶ歳月はいい意味でも悪い意味でも濃密な時間だった。
私はかんぽ営業の現場で何を見て、何を考え、なぜ退職を決断したのか。
――本書に記すのは、すべて私がかんぽ営業の現場で体験したありのままの事実である。

引用:フォレスト出版

ポイント

  • かんぽ生命保険のノルマ達成は絶対条件。顧客利益は二の次で、社員はノルマ達成のために奔走する。
  • ノルマ達成のためなら手段を選ばない。営業成績トップのエース社員が得意とする「乗り換え契約」と「料済み契約」。
  • 実績が上がらない社員はお荷物社員の烙印をおされる。退職させて「ノルマ軽減」へ。

サマリー

音声で聴く

はじめに

著者はかつて金融業界を転々とした後、ある時期に日本郵便に入社し東海地方の郵便局に配属された。

そして、支社の指示によりかんぽ生命保険の保険営業「金融渉外部員」として働くことになった。

本書は、その一年余りにおける「かんぽ営業」の現場を、著者自身が日記形式で記録したものだ。

契約獲得のために走り回る営業の日々、その裏にある制度や業務慣習、上司からのノルマ達成の圧力などがリアルに描かれている。

ノルマ至上主義

著者が現場に赴いた時、まず突きつけられたのは金融渉外部メンバーに対して課されるかんぽ生命保険の年間必達ノルマ「2,500万円」。

これは必ず達成しなければならない目標で、未達は許されない。

金融渉外部の社員は期初に示されるこのノルマを達成するために3〜4人にチーム分けされ、各々が作戦を立てて戦っていくことになる。

上司からは「契約が取れない者に居場所はない。歯を食いしばってでも成績を挙げろ」という叱咤激励が常に発せられた。

そのノルマのプレッシャーのもとで、著者は契約獲得のために動き回る営業漬けの生活を送ることとなる。

休日を返上して高齢者宅を訪問することも珍しくなく、顧客の都合より「契約をとること」が優先された。

土日に出勤することは「保険営業マン」としてはメリットも存在する。

かんぽ営業は、70歳以上の契約者に対して1回の訪問で契約してはならないというルールが存在する。

ただし、息子や娘などの家族が同席していた場合は1回の訪問でも問題にならない。

そのため、家族が在宅していることが多い土日の方が、一発契約に繋がる可能性が高いのである。

エース社員が提案する2つの契約

契約成立のための手法も、顧客の利益に反するものが存在する。

著者と同じ職場で働く局内断トツトップの営業成績を誇るエース社員が得意とする「乗り換え契約」と「料済み契約」がそれだ。

乗り換え契約

例えば、すでに契約している「養老保険」を解約させ、新たに「終身保険」を契約させるといった手法だ。

養老保険は満期があり保障が終了してしまうが、終身保険であれば一生涯の保障が受けられる。

養老保険を解約するとまとまったお金が返ってくるから、そのお金を原資に終身保険に加入してはどうかと勧誘する。

これにより、終身保険を新たに販売した保険営業マンは給料に手当金が追加されるのである。

この手法の問題点は、顧客が大きく損をするということ。

昔の保険は積立利率が良かったが、現在の積立利率は大きく下がっている。

よって、過去の保険を解約し新たに乗り換えると、最終的な返戻金は大きく減少してしまうのだ。

当然、その事実は顧客に説明されることはない。

料済み保険

「料済み」とは、その時点で保険料の支払いを止めることを指す。

これにより、顧客は保障を受けながらそれ以降の保険料の支払いをせずに済む。

本来は、顧客が保険料を支払うことができなくなったときの「最後の手段」である。

顧客は以後支払いをしなくていい反面、保障額が大幅に減少する。

エース社員は新規契約を獲得するにあたり、顧客が高額な保険料の支払い継続について不安を口にすると、最後の手段であるこの料済み契約をいきなり説明する。

しかも、保障額が減少することには触れないのだ。

苦しくなったら「料済み保険」にすることにして、とりあえず新規の契約を獲得する。

これらの契約形態は顧客の保障ニーズという観点ではなく、ノルマという数字を達成するための手段として機能していたのである。

ジレンマの中で販売した「がん保険」

著者が勤めていた郵便局ではかんぽ生命保険のほか、自動車保険や医療保険など様々な保険商品を取り扱っている。

がん保険もそのうちの一つだ。

がん保険はかんぽ生命保険ほど厳しいノルマは設定されていないものの、売上を達成しなくてはならない商品であることに変わりはない。

著者は、このがん保険を70代の女性に販売したエピソードを紹介している。

ところが、著者自身は以下2つの理由によりがん保険に加入していない。

  • 日本には「高額療養費制度」があり、治療費が一定額を超えると、その超過分は公的扶助でまかなうことができる。
  • がん保険に長期間保険料を支払い続けていたとしても、がんにならなければ給付を受けられず、費用対効果が悪い。

がんにより高額の医療費がかかったとしても、経済的リスクは公的扶助により抑えることができる。

そのため、貯蓄さえしておけばがん保険に入る必要などない。

これが、著者の考えだ。

当然、保険の営業マンとして顧客にその説明をするわけにはいかない。

「2人に1人はがんになる時代です」と、消費者の不安を煽るセールストークを使用し、著者は月々1万円を超える高額な保険をこの女性に販売した。

「よい保険を教えてくれて、ありがとう」

この言葉で著者は罪悪感にさいなまれる。

お荷物社員の行く末

厳しいノルマが課される中、もし成績が上がらないと一体どうなるのか。

本書では、実績を挙げることができずに退社に追い込まれた一人の社員が紹介されている。

毎朝行われている朝礼では、前日の営業成績が発表される。

ここでこの社員は、上司から「このままだとクビだ」と怒鳴りつけられているエピソードが紹介されている。

この社員は電話掛けを精力的に行っていてアポ取りもうまく、顧客の元へ訪問するまではたどり着くことができる。

しかし、契約を取るまでには至らなかった。

結果、実績が挙げられず休職することになってしまったのだが、この社員に上司がかけた言葉は「退職」であった。

年度始めに設定されるノルマは、構成メンバーの頭数で設定されている。

つまり、休職状態が続くと少ないメンバーで高いノルマを達成させなくてはならなくなる。

休職者に「退職」を促すことは、設定ノルマを軽減することにつながるのである。

営業成績が振るわない社員に居場所はないのだ。

メディアへの告発

著者は郵便局在任中、NHKの番組取材と週刊東洋経済のインタビューを受ける機会を得ている。

自分自身の立場が危うくなるかもしれないという不安を抱えつつ、今の保険業界や郵便局のかんぽ営業問題について告発を行った。

著者はこの告発により、日本郵便という大きな組織に地殻変動が起き、営業手法が見直されるのではないかという淡い期待を抱いたという。

しかし、その期待は裏切られることになる。

後日、その週刊東洋経済を目にした部長が発した言葉は「なんも知らんくせに」であった。

世間にインパクトを与え、なんらかの変化のきっかけになってくれないかという著者の願いはもろくも崩れたのだ。

かんぽ営業の営業手法への不信感、そしてメディアへの告発が不発に終わった著者の思いは、次第に「辞めなければならない」という強い気持ちに変わっていった。

From Summary ONLINE

この書籍は、かんぽ生命の営業現場において繰り広げられる出来事を一つひとつ克明に記した実録である。

著者の「お客様のために寄り添った営業をしたい」という思いは叶えられることはない。

ノルマ達成のために、そして上司の機嫌を損ねないために、あらゆる手段を使って保険販売に奔走する姿がリアルに描かれている。

組織の歪みや保険業界の問題点、契約数最優先の営業姿勢などがわかり、非常に考えさせられる。

保険は生きていれば誰もが関わる身近な商品である。

その保険商品の販売実態がどのようなものであるかを知ることができる貴重な一冊だ。

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