| 題名 | 風俗嬢のその後 |
| 著者 | 坂爪 真吾 |
| 出版社 | 筑摩書房 |
| 出版日 | 2025年3月 |
| 価格 | 1,100円(税込) |
どうしたら、脱がずに生きていけるのか。
性風俗で働くことには、昼の世界よりも圧倒的に高額な報酬を手にすることができる可能性がある反面、ストーカー被害や性感染症、社会的な信用といった面での大きなリスクが伴う。彼女たちはなぜ性風俗産業で働きはじめ、どのようにして卒業したのか。実際の体験談から脱がずに生きる方法を模索する。
引用:筑摩書房
ポイント
- 店に頼らず自身で個人イベントを行うなどの工夫をしながら「また会いたいと思ってもらえるキャスト」をスローガンに前向きに取り組むことで売上を伸ばすことができた。風俗って、男性にとっても、女性にとっても、ある意味で楽園だと彼女は言う。
- 性風俗で働く事が一概に悪いとは考えていないし、性風俗の世界に足を踏み入れないことが良いことである、とも考えていない。①良い店を選ぶ ②目標をもつ ③専業にしないことが性風俗の世界からスムーズに卒業し、社会と繋がるためのポイントだという。
- 自分の判断で選べない、決められない、目標を持てないなど事情や特性のある人に対して、正論をぶつけても意味がない。「自己責任」の名の下に放置すれのではなく、自助努力だけで現状を打開することが難しい状況に追い込まれた人たちへの社会的支援が必要だ。
サマリー
音声で聴く
はじめに
性風俗の仕事に従事する女性達は、いつの時代も世間の関心を集める存在である。
そのため、これまで多くのメディアや書き手によって言語化されてきた。
しかし、その後の人生について。スポットライトが当たることはほとんどなかった。
脱ぐ仕事とは、自分自身を売る仕事である。
社会の中で孤立・困窮した人にとって、自分自身の身体と時間は、唯一にして最後の商品となる。
しかし、誰しもが持つ商品ということもあり、あっという間に市場で消費され、使い捨てられてしまうリスクがある。
本書に登場する、13名の女性達の言葉や生き様が、あなた自身、もしくはあなたの大切な人が「脱がずに生きる」ためのきっかけになる事を願うと著者は伝えている。
自分を傷つけずに働ける場所
自分の名前で呼ばれて仕事をして、やりがいを感じたかった
佳菜子さん(仮名)は、高校卒業後、美容師の専門学校に進学。
都市部で一人暮らしをしながら美容室で働いていたが、人間関係トラブルやメンタル不調が重なり、1年で仕事をやめることになった。
当面の収入を得るため、デリヘルで働き始めた。
働き始めた当初は、売れない時期もあったが、店に頼らず自身で個人イベントを行うなどの工夫をしながら「また会いたいと思ってもらえるキャスト」をスローガンに前向きに取り組むことで売上を伸ばすことができた。
収入が大幅に増えたことで、生活には全く不自由しなくなり、稼いだお金を貯金や趣味に充てることもできるようになったという。
風俗って、男性にとっても、女性にとっても、ある意味で楽園だと彼女は言う。
昔の栄光ばかりが頭にあって、売れるための努力ができなかった
ゆかりさん(仮名)が性風俗の世界に足を踏み入れたきっかけは、飲み代の支払いだった。
ピンクサロンに誘われ、どんなサービスをするのかもわからなかったが、お金を稼げるならと、働く事を決めた。
想像以上に稼ぐ事ができ、その後さらに稼げると思いデリヘルに移籍した。
三十歳になった時、病気で体調を崩したことをきっかけに地元に帰り、そこから性風俗の仕事は一切していない。
地元のスーパーマーケットでパートとして働いている。
稼げるためには創意工夫が必要だが、何もしなくても稼げた昔の栄光があったので、売れるための努力ができなかった。
ちょうど良いタイミングで辞められたと彼女は語る。
誰もが「脱がずに生きる」事の出来る社会とは
あえて違う世界で生きていくしかない環境に自分を追い込んだ
大学2年生のときに店舗型ヘルスで働き始めたエリカさん(仮名)は、大学生活を送るために必要な収入を得るため、戦略的に性風俗で働くことを選んだ。
幼少期に親の離婚や生活困窮を経験し、大学入学後は親からの援助は一切なく、複数のあるバイトをかけもちして学費や生活費を稼がなければならなかった。
「ないものは仕方がない。文句を言っていても、それでお金が増えるわけではない。そのおかげで頑張ることができました」と冷静に捉えている。
大学卒業前に夜職を辞めて、内定先の企業に無事就職した。
在学中に借りた数百万円の奨学金は、卒業と同時に全額を一括で返済した。
就職して以降現在に至るまで、性風俗の仕事はしていない。
性風俗の世界からスムーズに卒業し、社会と繋がるためのヒントとして、エリカさんは3つのポイントを挙げている。
①良い店を選ぶ
②目標をもつ
③専業にしない
彼女は、性風俗で働く事が一概に悪いとは考えていないし、性風俗の世界に足を踏み入れないことが良いことである、とも考えていないと著者は付け加える。
「性風俗とは何か」という問いに答える
良い店を選ぶ、目標をもつ、専業にはしない。
こうしたポイントを守る事の出来る人は、決して多数派ではない。
自分の判断で選べない、決められない、目標を持てないなど事情や特性のある人に対して、正論をぶつけても意味がない。
同様に「自己責任」の名の下に放置すればいいというわけでもない。
自助努力だけで現状を打開することが難しい状況に追い込まれた人たちに必要なのは、社会的な支援である。
性風俗とは、「あらゆる境界線を曖昧にすることで、短期的な利益の最大化を追求する仕組み」である。
その結果、長期にわたって働き続けてしまう女性達も増えている。
長期的に働くことが前提にされていない世界で、「自己責任」の名の下に、現場で起こっている問題を放置・黙認することは、百害あって一利無しだろうと著者は主張する。
おわりに
これまで、延べ一万人を超える性風俗の世界で働く女性達の相談を受け、彼女たちの置かれている状況、その背景にある社会課題を言語化し、社会に発信する作業を弛まず実践してきた。
夜職からの卒業、そしてセカンドキャリアの構築は、一筋縄ではいかないことも多いが、心の中にある思い込みを取り除き、自らの強みを自覚するだけで、簡単に実現できることもある。
解けるはずのないように思えた難問も、あっさり解決することもある。
脱がずに生きるために必要な力は、一人ひとりの心の中、そして私たちの社会の中に、既に備わっている。
本書がその力を引き出すきっかけになり、夜の世界を卒業した女性達が、陽の当たる世界で、自分らしい「その後」をデザインするためのツールになればこれ以上の喜びはないと著者は語る。
From Summary ONLINE
本書は、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる著者による、性風俗などの夜職を経験した女性のその後の人生を追いかけた一冊である。
本要約では、本書で取り上げられた性風俗で働いた経験をした女性の話を数名紹介する。
本書では、13人の女性の話が登場し、業界固有の問題にも触れながら、一人ひとりの事情や考え、生き様に触れる事ができる。
現代女性の抱える問題や労働市場としての性風俗について興味・関心のある方におすすめの一冊である。