インフォメーション
| 題名 | GX産業革命 〜最先端の自然科学が日本の次世代を創る〜 |
| 著者 | 湯川 英明 |
| 出版社 | フローラル出版 |
| 出版日 | 2025年6月 |
| 価格 | 1,980円(税込) |
CO₂が、資源に?
次世代エネルギーは、菌がつくる!
技術実績のある日本が世界を導く未来になる!
「GX」とは?
「グリーントランスフォーメーション」の略で、温室効果ガスの排出削減と経済成長の両立を目指す取り組みのことを意味します。
「バイオものづくり」の専門家が徹底解説!
問題視されがちなCO₂ を餌とする“菌”が、既存の世界産業を覆すという新事実をどこよりも早くお届けします!
引用:フローラル出版
ポイント
- 著者が研究しているものは「UCDI®水素菌」である。水素菌は、水素をエネルギー源としてCO₂を取り込み、有機成分を生成する。これを利用すれば、地球温暖化の主原因となっているCO₂を削減しながら、資源を生成できることになる。
- 著者が代表を務めるCO2資源化研究所は、UCDI®水素菌を用い、CO₂を原材料とした代替タンパクの開発に成功した。必要に応じて、畜産から生成する動物性タンパク質への転換が可能ということだ。
- CO2資源化研究所は、水素菌を用いてCO₂からエタノールを製造する技術を開発し、基本特許を取得。エタノールをバイオジェット燃料として実用化させていくプロジェクトを進行中である。
サマリー
音声で聴く
はじめに
GXとは、グリーントランスフォーメーションの略で、温室効果ガスの排出削減と経済成長の両立を目指す取り組みを意味する。
著者は株式会社CO2資源化研究所の代表で、「バイオものづくり」を専門とした研究者である。
バイオものづくりとは、「微生物の特性を活かしたものづくり」といったところ。
CO2資源化研究所で取り扱っている微生物は「水素菌」と分類されるものだ。
水素菌は、二酸化炭素を餌として、体内にタンパク質を作りながら自身の体を増殖させていく。
水素をエネルギー源としてCO₂を取り込み、有機成分を生成するのである。
これを利用すれば、地球温暖化の主原因となっているCO₂を削減しながら、資源を生成できることになる。
バイオものづくりは、大きな可能性を秘めているのだ。
UCDI®水素菌とは
圧倒的な増殖力
著者が研究しているものは「UCDI®水素菌」と称するものである。
CO2資源化研究所の英語表記「Utilization of Carbon Dioxide Institute」の頭文字を取ったもので、1976年に伊豆の温泉で発見され、自然界から単離することに成功した。
水素菌には様々な種類があるが、UCDI®水素菌は圧倒的な増殖能力を持っていることが特徴である。
従来の水素菌の分裂時間は3時間弱、対してUCDI®水素菌は1時間。
24時間の培養時間で換算すると、前者は菌体1グラムが約500グラムになるところ、後者は16トンにも増殖する。
資源化の大きなハードル
水素菌を活用したCO₂の資源化のハードルは、コストである。
水素の製造に必要な化石燃料価格の上昇や、世界的なインフレの影響で、2024年春以降に急激に高騰した。
水素菌によるCO₂の資源化を実現するには、価格低減は絶対条件である。
一方で、日本は2024年に「水素社会推進法」を成立させ、すでに施行段階に入っている。
2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロを実現させるために、水素をエネルギーとして普及させ、活用を後押しするための法律だ。
経済産業省は2050年までに水素価格を引き下げる目標を掲げている。
食糧不足を救う
プロテインクライシス
世界の人口は、アジアやアフリカなどの発展途上国を中心に増加傾向にあり、将来的には「プロテインクライシス」に陥ることが危惧されている。
「プロテインクライシス」とは、人口増加により食肉の消費量が増大することで、タンパク質源の供給が追いつかなくなる状況を指す。
それに備えるため、世界中で代替タンパク質の研究が進められている。
CO₂を原材料とした代替タンパク
CO2資源化研究所は、UCDI®水素菌を用い、CO₂を原材料とした代替タンパクの開発に成功した。
水素菌はCO₂を取り込み、そこに含まれる炭素を「アミノ酸」に変えていく。
アミノ酸はタンパク質の材料になるため、これらをつなぎあわせることでタンパク質を産生することができるのだ。
菌体は粗タンパク質含有量が約80%以上と高品質であり、組成は動物性タンパクのアミノ酸組成とほぼ同じ。
必要に応じて、牛乳、チーズ、牛肉など、畜産から生成する動物性タンパク質への転換が可能ということだ。
新しい食品は、制度などの問題があり、今の日本での流通はすぐには難しい。
しかし、この研究は「農林水産省中小企業イノベーション創出推進事業」で採択された。
日本政府、政治家も、その重要性、可能性に少なからず期待をしているということだろう。
燃料不足を救う
持続可能な航空燃料
航空業界は、CO₂排出量削減目標として、2050年までにカーボンニュートラルを達成するとしている。
そのカギを握っているのが「持続可能な航空燃料(Sustainable aviation fuel=SAF)」である。
化石燃料に依存せず、バイオマス原料のような炭素循環型の原料を使用しているジェット燃料のことだ。
SAFの分野で最近注目されているのがATJ(Alcohol to Jet)という製法である。
これはエタノールに代表されるようなアルコールを、ジェット燃料として活用しようとするもの。
現在、アメリカやブラジルを筆頭に、エタノールをさまざまな燃料として活用する動きが活発になっている。
自動車にも使えるエタノールが、化学変換させるだけでジェット燃料として使えれば、かなり効率が良いのだ。
水素菌とCO₂から作るエタノール
UCDI®水素菌を用いたバイオジェット燃料も、ATJの製法で作られたものである。
2019年、CO2資源化研究所は、水素菌を用いてCO₂からエタノールを製造する技術を開発し、基本特許を取得した。
新しいバイオジェット燃料が国際的に認められるには、民間規格制定機関ASTMの認証が必要となるが、CO2資源化研究所のバイオジェット燃料はその認証もクリア可能だ。
現在、大手石油製品会社と協力して、エタノールをバイオジェット燃料として実用化させていくプロジェクトを進行中である。
UCDI®水素菌由来のCO₂燃料には、他のSAFと比べてもよりCO₂削減に貢献できるというメリットがある。
その理由はCO₂そのものを直接的に原料として使うことだ。
他のSAFは廃食油、サトウキビ、古紙などCO₂を吸収した間接的な物体を原料としている。
間接的よりも直接使用するほうが効率がよいことは明らかだろう。
From Summary ONLINE
異常気象、四季がなくなってきているなど、地球温暖化の影響については誰もが実感している。
少しでも地球にやさしい行動を、と思ってみても、現実的には、二酸化炭素を排出しない生活は考えられない。
しかし、そんな“悪者”とされるCO₂を利用して、エネルギーや食料を作れる可能性があるという。
本書は、その大きな可能性を秘めた「UCDI®水素菌」について、そしてその「UCDI®水素菌」に惚れ込んだ著者の熱い思いが綴られている。
地球温暖化に対して、意識と行動を変えるためには、そういう研究があることを知ることも大切だ。
少しでも関心を持ったなら、ぜひ一読してほしい。