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【文転】

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インフォメーション

題名文転
著者松崎忠男
出版社
出版日2025年10月
価格500円(税込)

登場人物

渥美隼人
 主人公。文部科学省傘下の科学技術研究所を退職後、甥の悠太の家庭教師となる。

下沢悠太
 T大理科一類を志望している浪人生。科学者を目指している。

渥美美咲
 隼人の娘。都内の中高一貫校に通っており、悠太と同じT大志望。

下沢幸恵
 隼人の妹。息子の悠太の受験を心配し、兄に受験指導を頼む。

あらすじ

※一部、ネタバレを含みます。

※本記事は要約記事ではなく、自身の言葉であらすじ及び感想を書いたものです。

T大合格を目指して

文部科学省傘下の科学技術研究所を退職した渥美隼人は、静かな日常に戻ったと思っていた。

だがまもなく、実妹である幸恵から、甥の悠太の受験勉強を見てほしいと頼まれる。

悠太はT大理科一類を受験したが、数学で失敗し不合格。浪人生として再挑戦中だった。

隼人からの指導を受け、T大受験対策を進めていく悠太。

一方、隼人の娘・美咲も同じT大を志望しているものの、反抗期の延長のような関係の悪さから、父の指導だけは頑なに拒んでいた。

文転

夏、隼人と悠太は山中湖の別荘で二週間の合宿を行い、生活を共にしながら勉強に打ち込む。

研究者を目指す悠太に、隼人はかつて自身が研究の道を諦めた苦い経験を語り、研究者になることの現実を静かに伝える。

勉強合宿を終えた悠太だったが、夏休み明けのT大模試で数学は振るわず、不安は消えない。

そんな矢先、悠太の母・幸恵が乳癌であることが判明し、家族の不安が一気に色濃くなる。

悠太の数学力では共通テストなら満点を狙えるものの、T大の理系受験を確実に突破するには不安が残った。

隼人は、将来性や経済的な点を考慮し、「今なら間に合う」と文転を強く勧める。

共通テストの出願期限が迫るなか、悠太は迷い続けるが、隼人、悠太、母・幸恵の三人で重ねた議論の末、最終的に隼人が責任を引き受ける形で文転が決まった。

なかなか伸びない数学

方向転換から数か月。

年末のT大模試で、文系数学は期待ほど伸びなかった。

文系だと侮っていたと痛感した隼人は、悠太を“確実に”合格へ導くため、独自に「チャート式数学・全課題マスター用チェックリスト」の制作を始める。

焦る美咲

一方、隼人の娘・美咲も共通テストで英語と数学を落としてしまい、T大文二を断念することに。悔しさを抱えつつ、隼人の助言も踏まえてK大学経済学部へ志望を切り替えた。

残された時間が限られたなかで、美咲は初めて父に「英語を教えてほしい」と頼む。

父娘の関係はぎこちないまま、しかし確かな変化を含んで、一月余りの集中的な和文英訳の指導が始まった。

試験当日

そして二次試験の日。

数学の問題をざっと見た瞬間、悠太には「戦える」という確かな感触があった。

三問半を完成させ、八割以上は堅いという手応えを得る。

他の科目も落ち着いて取り組むことができ、試験を終えた頃には合格を確信していた。

同じ夜、美咲も帰宅し、「思ったよりできた」と笑顔を見せる。

数学は五問中三問を解け、父と積み上げた和文英訳にも手応えがあった。家族の空気は、久しぶりに明るい期待で満たされた。

合格発表

そして3月10日、ほぼ同じ時刻に迎えた合格発表。

悠太は予想通り合格を果たし、美咲も無事合格することができた。

家族それぞれが抱えた葛藤や、隼人の献身がようやく報われた瞬間だった。

二人の受験生は、それぞれの志望校への切符を手にし、新たな未来へ歩み出す。

静かに寄り添い、時に厳しく導いた隼人の姿が、この二人のこれからの人生を大きく変えたのだった。

ライターのコメント

受験生と担当講師の授業内容を俯瞰して見ているような気持ちになる。

台詞が多いため、サクサクと読み進めることができた。

特に『こういう難しい数学が自分は本当に好きなんだろうか、これからずっとやっていけるだろうか自問自答してみるといい。

数学ができると恰好いいとか、だから理系だとか、そういう安易な発想で進路を決めるべきじゃない。

将来何になりたいかよく考えて進路を決めるべきだよ。』という言葉が印象的だった。

また、問題形式で話が進んでいくため、一緒に参考書を解いているような感覚になった。

どのように進路を選ぶと良いのか、どう問題を解けば良いのか、進路選択や受験勉強に悩む生徒たちに勧めたい一冊だ。

受験生にはもちろん、進路指導を担当する先生や、保護者の方にも是非読んでいただきたい。

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