インフォメーション
| 題名 | 性風俗サバイバル |
| 著者 | 坂爪 真吾 |
| 出版社 | 筑摩書房 |
| 出版日 | 2021年4月 |
| 価格 | 902円(税込) |
デリヘル、ソープなど業態を問わず、危機に直面した性風俗。世間からは煙たがられ、客足は遠のき、公助も頼れない中、いかにしのぎ切ったのか、渾身のドキュメント。
引用:筑摩書房
ポイント
- コロナ禍で都内は自粛ムードが強まってからわずか1週間、性風俗の世界は「生きていくために必要なお金・仕事・人間関係・住む場所・食べるもの」を同時に失った女性たちであふれかえったのだ。
- 性風俗の世界は、「自助」だけでは生きられない。
しかし「公助」は使えない(あるいは使いたくない)という人たちが集まる、「共助」の世界である。しかし、今回のコロナ禍では、「共助としての性風俗」の強さと脆さが、改めて浮き彫りになったのだ。
- 多くの女性たちは努力(自助)も報われず、助け合い(共助)も機能せず、公的支援(公助)にもつながれないという“地獄”に突き落とされてしまった。
そうした中で著者らが行ってきた相談支援やソーシャルアクションは、「公助につなぎ直すための共助」を新たに生み出す試みだったのである。
サマリー
LINEの通知が鳴り止まない
2,929人──これは、2020年の1年間で性風俗の世界で働く女性たちから、無料生活・法律相談窓口「風のテラス」に寄せられた相談件数の合計である。
それまで「風テラス」の相談件数は、月に10名を超えることはほとんどなかったが、2020年2月にはついに100名を超えた。
著者らはスマートフォンを通じて、全国各地の性風俗で働く女性たちとつながり、懸命に回答しながら必要とされる情報を発信し続けた。
オンライン相談を始めた4月には、合計33名の女性から相談が寄せられた。
30代・デリヘル勤務の女性:
「暴力を振るう親から逃げてホテル暮らしをしていますが、コロナの影響で収入がなくなりました。保険証も住民票もないため、給付金も受け取れません。明日にはホテルを出て行かなくてはならず、もう生きていけません」
30代・ソープ勤務の女性:
「コロナの影響で出勤できず、収入が途絶えました。確定申告もしておらず、収入を証明するものがないため、給付金を申請することもできません。どうしたらよいでしょうか」
相談対応の初日から、現場は混乱を極めた。
都内で自粛ムードが強まってからわずか1週間で、性風俗の世界は「生きていくために必要なお金・仕事・人間関係・住む場所・食べるもの」を同時に失った女性たちであふれかえったのだ。
風テラスのTwitterや公式サイトでは、働く女性たちに役立つ情報やニュースを随時発信していくことにした。
「風俗で働いていても、生活保護は受給できます。
住民票がなくても、滞在している地域の役所で申請可能です。
確定申告をしていなくても、借金があっても、それを理由に生活保護を断られることはありません。」
このメッセージを、繰り返し発信し続けた。
「最後に頼れるのは公助しかない」という現実
性風俗の世界は、「自助」だけでは生きられない。
しかし「公助」は使えない(あるいは使いたくない)という人たちが集まる、「共助」の世界である。
今回のコロナ禍では、歴史上初めて全国一斉に性風俗店の営業が止まった。
そのわずか1か月の間に、全国各地で膨大な数の女性たちが「死ぬか、生きるか」という切迫した状況に追い込まれたのだ。
そして、「共助としての性風俗」の強さと脆さが、改めて浮き彫りになった。
風テラスでは延べ1,565人の女性から相談を受けた。
その中で見えてきたのは、彼女たちの苦悩と涙、そして笑顔の奥にある「最後に頼れるのは公助しかない」という現実だった。
これまで公助に頼らずに生き延びてきた(=公助から排除され続けてきた)性風俗業界にとって、それは直視したくない現実でもある。
働く女性にとっても、経営者にとっても、行政にとっても、「性風俗と公助をつなぐ」という発想は、まったくの想定外であり、前例のない試みであった。
しかし、コロナ禍のような社会的危機においては、公助につながる以外に、性風俗の世界で働く人たちが自らの命を守る手段はない。
たとえ、それが社会通念や公序良俗、国民感情に反して見えるものであったとしても、である。
「公助につなぎ直すための共助」をつくる
夜の世界は、もともと「公助から排除された人たちのための共助」であった。
しかし、今回のコロナ禍でその仕組みが崩壊した結果、多くの女性たちは努力(自助)も報われず、助け合い(共助)も機能せず、公的支援(公助)にもつながれないという“地獄”に突き落とされてしまった。
そうした中で著者らが行ってきた相談支援やソーシャルアクションは、「公助につなぎ直すための共助」を新たに生み出す試みだったのである。
公助の一つである社会保障制度は、「申請主義」に基づいて運営されている。
つまり、困っている本人が自ら制度の情報を集め、必要な書類を漏れなく揃え、役所の窓口へ直接申請に行かなければならない。
性風俗で働く女性たちにとって、これがどれほど困難なことか、想像に難くないだろう。
自助努力がなければ公助につながれないという矛盾が存在するのだとすれば、「公助につなぐための共助」を充実させることが必要だと考える。
それは、性風俗で働く女性をはじめ、社会的に孤立しやすい立場にある人々が、自立して生きていくための前提条件となるはずだ。
もし「公助から排除された人たちのための共助」が夜の世界に張り巡らされたセーフティネットであるとすれば、「公助につなぎ直すための共助」は、再び昼の世界に戻るためのトランポリンである。
ベクトルの異なる二つの共助があれば、性風俗の世界を「抜け出せない場所」から、「そこから抜け出すための出口や支援が多く用意された場所」へと変えていくことができるだろう。
From Summary ONLINE
本書は、コロナ禍をきっかけに「性風俗という仕事」が直面した現実と、そこで生きる人々のサバイバルを描いたノンフィクションである。
もともと風俗業界は、他人に頼れない人たちが寄り添い合い、支え合う「共助」の場であった。
しかし、コロナ感染拡大による営業停止や社会的差別によって、その共助の仕組みすら崩れてしまったのだ。
著者は、風俗業界そのものを「守る」ためではなく、「そこにいる人たちを見捨てない」ための活動を続けており、私自身も初めて、社会の「見えない場所」で生きる人々の姿を知った。
この本は、単なる「風俗業界のルポ」ではなく、「誰もが社会の中で孤立しないために、私たちに何ができるのか」を考えさせてくれる一冊である。