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【官僚生態図鑑】

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目次

インフォメーション

題名官僚生態図鑑
著者森永 卓郎
出版社フォレスト出版 / 三五館シンシャ発行
出版日2024年11月
価格1,650円(税込)

45年間にわたる職業人生のほとんどは官僚とともにあり、間近で彼らの生態を観察してきた。
私の眼には、素晴らしいことから悪辣なことまで官僚の生態とその変化がしっかりと焼き付いている。
本書では、それを読者のみなさんに余すところなくお伝えしたい。
本書が日本で初めての「官僚生態図鑑」たるゆえんだ。(本文より)

優秀な官僚が1990年以降、フリンジ・ベネフィットと政策の決定権をはく奪されて、すねてしまっている。
そして、小市民化し、国家ではなく、自分たちの暮らしを改善するためのズレた政策遂行に邁進するようになってしまった。官僚の暴走が日本の経済社会停滞の大きな原因になっている以上、それを止めないといけない。
――官僚の生態系に今、何が起きているのか?

引用:フォレスト出版

ポイント

  • 官僚には、長年用意されてきた2つのフリンジ・ベネフィット(実質的な別払い給与)が存在する。1つは、所管業界や所管自治体からの接待や付け届けといった饗応、2つめは「天下り」だ。
  • 官僚本人が受け取る非合法のフリンジ・ベネフィットが「収賄」である。これを「毒まんじゅう」と呼び、餡はカネ、皮は女だと揶揄されてきた。
  • 2001年、小泉純一郎政権が誕生し、官邸主導の経済財政諮問会議が設置された。しかし、この「官邸主導」は、官僚にとって最大のフリンジ・ベネフィットである「政策づくりの楽しさとやりがい」を奪うことになったのだ。

サマリー

2つのフリンジ・ベネフィット

官僚は「国民のためにすべてを捧げる」という高い意識に支えられているとはいえ、私たち民間の営みと比べると、その環境は大きく異なる。

彼らには、長年用意されてきた2つのフリンジ・ベネフィット(実質的な別払い給与)が存在する。

1つは、所管業界や所管自治体からの接待や付け届けといった饗応である。

かつて、キャリア官僚が住む公務員住宅では、部屋の中にお中元やお歳暮が天井まで積み上がることもあった。

財務省や経産省など、強い権限を持つ省庁の官僚は、より大きな饗応を受けることができたのである。

2つめは、官僚にとって金銭的に最大のフリンジ・ベネフィットである「天下り」だ。

真の厚遇は、定年後に待ち受けている。

天下り先では、年2000万円前後の報酬が用意され、ほとんど仕事をしなくても、個室・秘書・専用車・交際費・海外旅行まで与えられる。

一方、受け入れ企業には年間1億円近い負担がかかるといわれているのだ。

その結果、官僚がフリンジ・ベネフィットを含めて実質的に得る生涯年収は最大で30億円に達するともされる。

官僚たちは皆、その仕組みをよく理解しているのである。


毒まんじゅうの餡はカネ、皮は…

官僚本人が受け取る非合法のフリンジ・ベネフィットが「収賄」である。

これを「毒まんじゅう」と呼び、餡はカネ、皮は女だと揶揄されてきた。

最も一般的な毒まんじゅうの餡は「接待」である。

所属する業界が官僚を高級レストランや料亭に招き、補助金の支援や規制緩和など有利な見返りを期待するのだ。

著者が日本専売公社に入社して最初に担当した仕事は、大蔵官僚の飲食代を経費処理することだった。

官僚が銀座で飲食した請求書が専売公社に回され、それを「会議費」として処理するために、著者らが飲食したかのように偽装するのである。

つまり大蔵官僚は、いつでも好きなだけ飲食し、その費用を所管業者に付け回すことができたのだ。

毒まんじゅうの皮についても、著者は一度だけ関わったことがある。

44年前、花柳界での宴席で大蔵官僚を招き、芸者の踊りを楽しんだのち、官僚は隣室に誘導された。

そこには布団と若い女性が待っており、瞬時に何が起こるかを悟ったという。

当時の費用は30万円、現在の価値で50万円以上。ちなみに著者の初任給は12万8000円であった。

天下り規制を無力化する仕組み

2008年12月31日、改正国家公務員法が施行され、天下り規制が強化された。

  1. 現職員による再就職あっせんを全面禁止
  2. 現職員による利害関係企業への求職活動を規制
  3. 退職職員による働きかけを禁止

しかし、官僚にとって天下りは生涯報酬を高める最大の手段であり、簡単に手放せるものではないので、法律に規制を無力化する仕組みが巧妙に仕組まれていた。

天下りそのものを禁止せず、あっせんのみを禁止とし、新設の「官民人材交流センター」に一元化しただけである。

抜け道の多い「ザル法」となり、天下りは形を変えて存続した。

結果として、量的縮小ではなく質の低下を招いたのである。

根こそぎ奪われた「官僚のやりがい」

2001年、小泉純一郎政権が誕生し、官邸主導の経済財政諮問会議が設置された。

ここで中長期を含めた予算の方向性を決定し、官僚はその枠組みの中で政策をつくる役割を担うことになったのだ。

理屈としては正しい。

国の舵取りは内閣の役割であり、正当な議論である。

しかし、この「官邸主導」は、官僚にとって最大のフリンジ・ベネフィットである「政策づくりの楽しさとやりがい」を奪うことになったのだ。

かつては自由に描けたストーリーやキャラクターを、指示通りに描くだけのアシスタントにされたようなものである。

その結果、魅力を失った若い官僚たちは地位を捨て、年収が10倍以上の仕事へ転じるケースが増えた。

実際、人事院によれば、採用後10年未満で退職した官僚は2022年度に177人と、現行制度開始以降最多を2年連続で更新した。

もっとも、毎年の採用数が約700人であることを考えれば、依然として彼らは少数派にとどまっている。

From Summary ONLINE

ストーリーはこの後、急激な環境変化に直面した官僚たちが、いかに行動したのかを描いている。

多くの官僚は驚くべき「戦略転換」に踏み切り、厳しさを増す自らの処遇の中で、自分たちの都合に合わせて国の制度や政策を次々と変えていったのだ。

著者は、こうした動きを続ける限り、日本は沈没の一途をたどると警鐘を鳴らし、その打開のための具体的な処方箋を提示している。

これまでキャリア官僚の実態を正直に描いた文献は少なく、この本は大変興味深く、貴重だと感じた。

社会構造や制度に関心がある人、社会批評・哲学的視点で読みたい人、経営者やビジネスパーソンにもおすすめしたい一冊である。

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